多彩な音名

出典: Knatech

「B の音を演奏してください」と言われたとき、吹奏楽とポップスバンドでは異なる高さの音を演奏するかもしれません。

これは音の呼び方が、国や文化、習慣などで異なることがあるからです。現在の日本では「Do、Re、Mi」のほか「ハ、ニ、ホ」「C、D、E」など、いくつかの音名が用いられています。

ここでは、使われている音名が、どこの国からやって来たのか、また、その音名が確立するまでの経緯などを、お話したいと思います。末尾には簡単な音名表を掲載しましたので、参考にして頂ければ幸いです。

目次

イタリア、ドイツ、イギリス、日本、...

音名は国によって呼ばれ方が異なります。

「Do はドーナツの Do、Re はレモンの...」で出てくる音名 Do、Re、Mi... はイタリア式です。吹奏楽でおなじみの C (ツェー)、D (デー)、E (エー)... はドイツ式です。

ポップスや MML での C (シー)、D (ディー)、E (イー)... はイギリス・アメリカ式です。ドイツ式に似ていますが、派生音は少し異なります。

ハ、ニ、ホ... もちろん日本式です。ハから始まるところなどは、ドイツ式に近いものがあります。

以降の節からは、これらの音名に関して、順に見ていくことにします。

イタリア・フランス式

イタリア式は、ギドー・ダレッツオが 11 世紀後半に、「聖ヨハネ賛歌」の各フレーズの開始音を順に取っていくことで構成されました。

Ut queant laxis
resonare fibris  しもべ達が声帯ものびやかに
mira gestorum
famuli tuorum,   汝の奇蹟の数々を歌えるように
solve polliti
labii reatum,    けがれたる唇の罪を免じたまえ
Sancte Ioannes.  聖者ヨハネよ

はじめは「Ut、Re、Mi、Fa、Sol、La」の 6 音でしたが、後に「聖ヨハネ」を表す「Sancte Ioannes」の頭文字から「Si」が加えられました。

さらに、「Ut」の発音が困難なため、Dominus (神 = God) の「Do」に変更されました。

なお、フランス式は、基本的にはイタリア式と同じですが、「Ut」が残っており、さらに「Re」にはアクセントが付いて「Ré」となる点が異なります。

派生音は、# が付くと、diesis (フランス式: diése)、♭が付くと、bemolle (フランス式: bémol) がそれぞれ音名に付きます。

ドイツ式

ドイツ式は、基本的にアルファベットを音に当てはめて構成されています。C (ツェー)、D (デー)、E (エー)、F (エフ)、G (ゲー)、A (アー)、H (ハー) が幹音となります。

初期のころはオクターブの概念がなく、ディスディアパゾンというギリシア人が定めた声域の範囲で、アルファベットの A から P (J を除く) を音階に割り当てていました。

紀元前 500 年ごろ、ローマ人のボエティウスがこれを行ったと言われています。

9 世紀末には、教会旋法の 1 つ、現在の長音階の先祖であるイオニア旋法に A から P が明確に当てはめられました。

現在のように、アルファベットが 1 オクターブ循環で付けられたのは、10 世紀前半で、オド・ド・クリュニによって成されました。

なぜ、A がイタリア式の Do ではなく、La になったのでしょうか。これに関してははっきり分かっていないようで、弦楽器の調整 (チューニング) から来ていることくらいしか言えません。

派生音は、例外を除いて # が付くと is、b が付くと es がそれぞれ音名に付きます。例えば D# であれば Dis、Db であれば Des となります。

なお、イタリア式 Si に対応する音名は B ではなく H です。昔は、この音の存在が不確定であり、低いピッチの Si を「柔らかい B」、高いピッチの Si を「硬い B」とされていました。

後になってから「硬い B」が H (Hard の頭文字?) に変わり、Si の音に対応付けられました。「柔らかい B」は正式な B となり、Si の ♭ に対応付けられました。よって、Si の ♭ は Hes ではなく、B (ベー) になります。

イギリス・アメリカ式

イギリス・アメリカ式 (両者の区別はありません) は、ドイツ式と基本的には同じです。ただし、発音は英語圏に従い、C (シー)、D (ディー)、E (イー)... と発音し、イタリア式 Si に対応する音名は B (ビー) となるところが異なります。

ドイツ式がクラシックで用いられるのに対して、イギリス・アメリカ式はポップスバンドでよく用いられます。よって、しばしば両者の間に食い違いが起こります。

発音が同じ音でも、両者で音の高さが異なる場合があるからです。例えば、「エー」と言うと、イギリス・アメリカ式では A になりますが、ドイツ式では E になり、音程にすると 5 度も開いてしまいます。

なお、派生音は # が付くと、その名のとおり sharp、♭ が付くと flat がそれぞれ音名に付きます。

日本式

最後は日本式ですが、これは日本に昔からあるイロハ順を、ドイツ式あるいはイギリス・アメリカ式に当てはめたものです。ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イ、ロが幹音となります。

日本式の背景には戦争がありました。学校の授業などでは、敵性語とも呼ばれた外来語の使用が禁止されました。音楽の授業も例外ではなく、それまでの「ドレミ唱」が「ハニホ唱」へと変更されたのです (1940 (昭15) 年 6 月)。

ドイツ式の「C、D、E」が「イ、ロ、ハ」ではなく「ハ、ニ、ホ」であることを考えると、日本の音階が外国の音階に影響されていることが分かります。

なお、派生音は # が付くと「嬰」、♭ が付くと「変」がそれぞれ音名に付きます。嬰や変は、中国の音階 (呂旋法など) から取ってきたものであると思われます。 音名表

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